物質生産の定量
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さて、植物の光合成効率を考える際に、葉のつき方を考察することがあります。
生態系を上から見て、水平面の葉の配置を考えることが多いですが、今回は生態系を横から見て、鉛直方向の葉の配置から、植物の光獲得戦略について迫っていきたいと思います。
物質生産(光合成)の効率は、その地域に入ってきた光をどのくらい無駄なく使えるかによって決まります。
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光の吸収効率は植物の葉を茎のどこにつけるか、つまり、葉の垂直分布に依存します。
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植物体内の葉の垂直方向の分布のことを生産構造といいます。
生産構造を調べる方法
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生産構造を調べる方法は以下の通りです。
- 等間隔の高さで植物体をカット
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- カットした高さ(層)ごとの「葉」と「それ以外の器官」
- 「葉」と「それ以外の器官」の重さを測定
これで、どの高さに葉がどのくらいついているかが分かります。
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この方法を層別刈取法といいます。
ちなみに、
葉を「同化器官」、それ以外を「非同化器官」といいます。
光合成は炭素同化の1つでしたね。
葉は主に炭素同化(光合成)を行う器官だから同化器官ですよ。
物質生産が行われている空間(垂直分布)
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ここからは実際に光合成(物質生産)がどこで行われているのかを調べる方法を考えたいと思います。
物質生産の空間的分布を調べるには、「同化器官の垂直分布(生産構造)」と「高さごとの照度」が必要です。
例えば、
10~20㎝で「照度は下がっている」が「葉はない」→10~20㎝で物質生産は行われていない。
10~20㎝で「葉はたくさんある」が、「照度が全く下がっていない」→10~20㎝で物質生産は行われていない。
と考えることができます。
つまり、「葉が存在する、かつ、葉に光が吸収されて(照度が減少して)いるならば、光合成(物質生産)が行われている」と考えられますね!
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「生産構造」と「高さごとの照度」を図で表したものを生産構造図といいます。
チカラシバとアカザの生産構造図
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生産構造図を作成すると、物質生産の空間的違いから植物は大きく2つにわけることができます。
代表的な植物として、チカラシバとアカザとを取り上げたいと思います。
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まずは生産構造図の具体的な図から示したいと思います。
・下の横軸は重量を表しています。
真ん中が0gで両端ほど重いことを
示しています。
左側が同化器官(緑色)の重さ、
右側が非同化器官(茶色)の重さです。
・縦軸は高さを表しています。
上にいくほど高いことを示しています。
・上の横軸(黄色)は、照度を表しています。
真ん中が100で、左にいくほど暗いことを
示しています。
では、それぞれの植物の生産構造図を見ていきましょう。
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左側はチカラシバの生産構造図です。
葉が下方に多く分布しており、
照度は徐々に減衰していることが分かります。
右側のアカザの生産構造図です。
葉が上方に多く分布しており、
照度は上方で一気に減衰していることが分かります。
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これより、
チカラシバでは、
上方から下方まで含めて全体で物質生産を行っているのに対して、
アカザでは、
上方でほとんどの物質生産を行っていることが分かります。
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チカラシバのような生産構造図をイネ科型、
アカザのような生産構造図を広葉型といいます。
イネ科型と広葉型の特徴
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イネ科型と広葉型の葉の配置方法に着目して特徴を押さえていきます。
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イネ科型は葉を垂直方向(茎と平行)に配置しています。
→葉1枚当たりの光吸収効率は低く
→上方で光をあまり吸収できないので、下方まで光が届く
→下方まで葉をつけるので、葉の数は多い
葉の数は多いが葉の維持コストが高くつくことになります。
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広葉型は葉を水平に配置してします。
→葉1枚当たりの光の吸収効率が高く
→上方の葉で多くの光を吸収してしまうので、下方まで光が届かない
→下方に葉をつけないので、葉の数は少ない
葉の数は少ないが葉の維持コストは少なくて済む
それぞれの生存戦略
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生物基礎で登場した、光合成効率と光の関係のグラフを用いて、それぞれの植物の戦略について考えてみましょう。
横軸は光の強さです。
右に行くほど明るい環境を表しています。
縦軸は二酸化炭素の吸収量(放出量)です。
0より上は二酸化炭素の吸収、
0より下は二酸化炭素の放出を表しています。
ちなみに0より下では、
呼吸量(有機物の消費)>光合成量(有機物の生産)
となっており、有機物は減少、植物は枯れてしまいます。
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イネ科型と広葉型のグラフです。細かく見ていきましょう。
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呼吸量(有機物を分解し、エネルギーを取り出す)
イネ科型>広葉型
イネ科型のほうが葉が多く維持するのにエネルギーが必要なため
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光補償点(有機物合成と有機物分解がつり合う光の強さ)
イネ科型>広葉型
広葉型のほうが葉が少なく、光の吸収効率も高いため。
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光飽和点における物質生産量(光合成のMAX値)
イネ科型>広葉型
イネ科型のほうが葉を多くつけられるため。
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以上より、物質生産の観点から考えると
光が弱い環境
イネ科型:すべての葉が十分に光合成を行えないのに、維持コストは高い(不利)
広葉型:少量の光を効率よく吸収(有利)
光が強い環境
イネ科型:すべての葉が十分な光合成を行える(有利)
広葉型:葉が少ないので飽和、光合成量が頭打ち(不利)
最後に
垂直方向の物質生産(生産構造図)から植物をイネ科型、広葉型に分類できることが分かりました。
強光環境下では、イネ科型が有利で、弱光環境下では、広葉型が有利であると考えられます。
イネ科型はたくさん光があるので、多くの葉をつけて、できるだけ光を利用する戦略、
広葉型は少ない光を獲得するために上方に多く葉をつけ、他の植物より先に光を利用するという戦略であると考えられます。
今回はここまでです。お疲れさまでした。
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